屋根が集まれば、原発を超える  シェアリングエネルギー 上村一行 | 100年ファンド 〜100 Years Fund〜

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屋根が集まれば、原発を超える  シェアリングエネルギー 上村一行

気候変動

2025.05.17

起業家講師:シェアリングエネルギー
代表取締役 上村一行
モデレーター:GMO VenturePartners
村松 竜

村松:今日はシェアリングエネルギー社の上村さんにお越しいただきました。

前回の起業家講師アスエネ西和田さんが、最初にやろうとしていた事業がまさに上村さんの事業です。投資家に「お金がかかりすぎる」と言われてビジネスモデルを見直したと西和田さんがおっしゃっていたのを覚えていますか。それがこれです。初期投資に大変お金がかかります。

上村さんは、ゴールドマン・サックスと組んで日本初の太陽光の「プロジェクトボンド(債券)」なるもので資金調達を実行し、業界でも話題になりました。では上村さんです!

上村: シェアリングエネルギーの上村と申します。今日はどうぞよろしくお願いします。まず我々のビジネス背景とそのしくみについて、簡単に説明させていただきます。

東京都がこの4月から新築一戸建て住宅への太陽光設置を義務化しました。川崎市、相模原市などがこれに続いています。

ですが、太陽光は以前より安くなったとはいえ、まだ高いんですね。初期設置費用の負担感が依然として大きい。また、日本には大きなプレイヤーがいないこともあり、メンテナンスへの根強い不安感があります。一方で、ニーズとしては電気代が上がっています。

この背景において我々は「シェアでんき」という初期費用無料の「PPA」モデルの事業を主に行っています。

PPAモデルとは

「PPA(Power Purchase Agreement)」とは何か。ユーザーは一円も払うことなく自分の家の屋根に太陽光が載ります。そこで発電した電気を、外から電気を買うよりも安い単価で使うことができます。さらに契約期間が終わると、その太陽光発電は自分のものになり、電気は無料になります。アフターメンテナンスも全て当社が対応します。

一つ一つの家に遠隔で監視・計測・制御できる装置がついています。30分単位で、想定通り発電しなかった場合は、我々にアラートが飛んできます。

さて、ここまで聞くと、それならどんどん普及するんじゃないか?と思われますよね。ところが、実はこのPPAの課題は「怪しい」(という先入観がある)ことなんです。ゼロ円で太陽光がついて、電気代は安くなって最後はもらえるって「なんて怪しいだ」と(笑)なるんですね。

また、設置にかかる費用を我々が負担するため、その投資コストを集めてこないといけない、ファイナンスしていかなくてはならないのがPPAの大きな課題です。

ただし、ここを解決すれば、住宅用太陽光の普及を早めることができると信じてやっています。「エネルギーシステムを変革する」をミッションに掲げ、シンプルにこのミッション実現のために会社を作り、事業をしています。

村松:「怪しさとの戦い」と「お金集めとの戦い」ですね。上村さんはそれに成功してきた。

上村:2020年にエネオスさんと第一生命さんが我々の株主に入ってくださいました。その次のラウンドでは地銀さんに多く入っていただき、地銀さんに「シェアでんき」を勧めていただきながら地方での信頼感を上げていく戦略をとりました。

現在まで、エクイティと融資(※後述)を合わせると210億円ほど集めています。毎月数百棟ペースで設置が進んでおり、現時点で日本の1万棟以上の屋根に我々のシステムが載っています。

一個一個で見ると本当に小さな発電所ですが、すべてネットワークで繋がっていますので、大きなメガソーラーが80個あるような、今そんな規模感になってきています。

村松: 1万軒の屋根に載ると、メガソーラー80個分なんですか!山などを切り開いて景観問題にもなっていますが、あれの80個分とはインパクトがありますね。

ちなみに原子力発電所1基分になるにはどれくらいの屋根が必要ですか。

上村:およそ10万世帯で原発1基分の出力です。2020年代中には到達できる見込みです。

初期費用無料にこだわる理由

学生1:「初期費用ゼロ」にすることで、逆に怪しまれ、顧客獲得上で課題があるというお話でした。たとえばですが最初は少しでも初期費用を取り、信用を得ていく中で少しずつ下げていく、という方法もあり得るんじゃないか?と聞いていて思いました。

自分もそうなのですが、高い買い物をする時って、相応の金額を支払うことで信用を買うような部分があるんじゃないかと思うんです。

上村:実は私たちが一般家庭に直接営業するのではなく、ハウスメーカーさん、工務店さんたちが新築を建てる時にセットアップして、広めてもらっています。彼らがお客さんに説明する時、「初期費用ゼロ」と、誰が説明しても分かりやすく伝わる必要がありました。

村松:投資家から「それだとキャッシュが持たないのでは」って声は出なかったですか。

上村:実は創業当初は、初期費用だけでなく、家の中で使う電気代まで無料というビジネスモデルにしていたんです。つまり外に売る方で回収しようと思っていたんです。

村松:それ、もっと怪しいですね、初期費用も月々の電気代も無料!それは怪しいです。

上村:太陽光発電って、一軒一軒を訪問して販売する領域の会社さんが今もあります。そこと明確に違う形で、レバレッジが効く形で広げていくために、「初期費用が高い」という課題をバサっと切る必要があったんです。

学生2: オンサイトPPAだと、昼と夜で、電気の需要と実際に発電する量にギャップがあると思います。分散電源として例えば電気自動車に利用するなどをパッケージとして売って顧客満足度を高めるという手法も考えられていますか。

上村: 今準備しているのが、まさにEVです。我々のお客さんの家には、ほぼ必ず車庫があります。そこに対して、いかにこの余った電気をうまく使い、ガソリン燃料が不要な生活を提供していくか。ここは我々としては今準備しているということです。

学生3:全国の家の何割くらいをシェアできるといったイメージ感はあるのでしょうか。

上村:現在、日本にはおよそ3,000万戸の戸建て住宅がありますが、そのうち物理的に太陽光を載せられるとされているのは、約1,500万戸です。

毎年新築される戸建て住宅は約30万戸で、これが我々のターゲットとなる新規参入の入口(SOM)で、1,500万戸が“最大ポテンシャル(TAM)”ということになります。

村松:来週のピッチ(実際のTAM/SAM/SOMの数字を入れて学生がやってみるピッチ)を意識した質問をいただきましたね。

プロジェクトボンド

村松:一棟あたりの設置費用の100万円、150万円を、お客さんの代わりにシェアエネさんが負担しているわけじゃないですか。1万ヶ所に設置すると、それだけで100億円です。

そのお金はどうしてるんですか?ファイナンスをもう少し詳しく教えてください。

上村裏側でいかにファイナンスをつけるか。いろんなやり方をこの数年間やってきましたが、今年、ゴールドマンサックスさんにアレンジャーとして入っていただいて40億円の「プロジェクトボンド」を組成させていただきました。

村松:なぜゴールドマンサックスが間に入っているんでしょうか。プロジェクトボンドの説明をお願いします。

上村:これはシェアでんきの将来収益を担保にした債券です。

一個一個の屋根からの発電収入はちっちゃいんですけども、同じような採算性を持った事業として束ねて、バルクで束ねて、あたかも一つのプロジェクトのように仕立てます。これがプロジェクトボンド(債券)です。それを、機関投資家といわれる大企業・金融機関が買います。

村松:会社の信用ではなく「屋根の集合体からの収益性」で投資判断されるんですね。

上村:今回、格付け機関に格付けも取っていただき、かつ、万が一それでも何か起きた時のバックアップも含めて、非常に難しいストラクチャーを作ってくれました。日本では初めてだったんです。

ゴールドマンサックスさんは機関投資家を連れてきていただける安心感など、非常に心強かったと思いますね。

村松::ゴールドマンサックスが相手にするスタートアップって、あまりないです。

やっぱり屋根が、耐用年数20年とか30年とかある中、晴れていれば確実に発電し続けるからこういうスキームができた

学生4:6〜7年で回収、収益化できるのに、なぜ契約期間を15年に設定しているのでしょうか?

上村:鋭いですね。まず「15年間」は、お客さんが受け入れやすい範囲を見極めつつ、競合他社とのバランスを考慮し、様々な試行錯誤の末に決定した数字です。

アメリカで同じビジネスをしているSunrun(サンラン)社というのがあります。とても大きな会社ですが、彼らの契約期間は30年です。私たちも最初は長期設定を試行錯誤しました。しかしレバレッジをかけて広げていくためにハウスメーカとの協働が不可欠で、20年、30年となると彼らが動きにくくなり、15年で落ち着きました。

発電以外の価値

学生4:屋根の上でCO₂を削減しているということですよね。カーボンクレジットの適用範囲になるんじゃないかって思ったのですが。

上村:ありがとうございます。質問していただいてめちゃくちゃ嬉しいです。

我々は、まずは数を広げます。お客様との関係を深め、一件あたりから得られる収益を高める。これが基本です。

一方で、家庭の屋根の上の太陽光発電が数万棟単位に広がってくると、その合計の発電容量は原子力発電所一基分にも匹敵する規模になります。

一軒一軒はとても小さな電源ですが、それらが束になることで、仮想的に一つの大きな発電所を運転しているような状態を生み出すことができるのです。

今、ただ発電するだけでなく、電気が足りない時に吐き出すとか、電気が余っている時に吸い込むとかといった電力の需給バランスを調整することが、電力市場の中で“価値”として認められ、対価を得られるマーケットが立ち上がってきています。

容量マーケットでは、将来の電力需要が逼迫するタイミングに向けて「供給できる準備ができている」という“供給力そのもの”に対して対価が支払われます。

また、夏や冬など電力需給が厳しい時期に、実際に電力を出し入れして調整することに対価が支払われる需給調整マーケットも存在します。私たちは現在、この需給調整マーケット参加に向け、3年連続で経産省DERアグリ実証に参加しています。

そして今質問していただいたカーボンクレジットですね。太陽光という「環境価値」が切り離して取引できるのです。

現在は、各地の太陽光から生まれるクレジットをアグリゲーション(束ねて集約)して、一つの大きなJクレジットとして組成し、ユーザーにも環境価値が還元される形で脱炭素に積極的に取り組む企業や自治体に向けて販売しています。また一部の自治体には、この環境価値を無償で還元しています。

村松:カーボンクレジットの売り上げがすでにあるのですか。

上村:はい、すでに売上があがっています。

優位性

上村:最後に我々の強みについてお話します。

我々は自社で太陽光パネルやHEMSを開発していません。テクノロジーは外部のものを積極的に活用しています。

では我々の優位性とは何か。1つは「中間コスト」を排除し、圧倒的にユーザーメリットの高いPPAモデルを提供している点です。だから「BtoBtoC」を広げていく際、ハウスメーカーさんやビルダーさんに「標準搭載」していただける率が非常に高いのです。実際、競合であった企業様とお互いの強みを活かして協業する形も増えています。

現在、提携している1800社のハウスメーカーさんやビルダーさんが販売する新築戸建住宅の商品ラインナップに「スペックイン(標準仕様化)」してもらう仕組みになっています。これだと他社への切り替えコストが高くなるためスイッチングが起きづらくなり、これが我々の強みになります。

そしてやはり、我々のように家庭用PPA事業に対してバックファイナンスをしっかり付けている会社は、現時点では他に見当たりません。これは大きな差別化要素であり、事業の安定性と成長力を支える重要な強みになっています。

昨年は同業他社の買収も行い、今後はスケールを拡大し他社との協業やアジア進出も視野に入れています。我々が目指すのは家庭用太陽光をシェアでんきとして当たり前のインフラにすることです。

乗り越えられる課題しか降ってこない

村松 この授業を取っている学生は将来の起業を意識している人が多いです。みなさんへメッセージをお願いします。

上村:このスライドに「いきなり最終ボスは現れない」と書きましたが、ゲームをやっていても、最初から最終面のボスみたいなのが現れることってないですよね。僕は経営も一緒かなと思っていて。

いきなり歯向かうことすら出来ないような課題って降ってこなくて、たとえば今の僕に、ソフトバンクの孫さんが抱える課題が降ってくることは(笑)絶対なくて、

自分が「ストレッチしたら手が届く」、そういう課題しか出てこないと思っています。課題が降ってくるってことは、それは乗り越えられるものなんじゃないか、と僕は思っています。

村松:最後の質問です。これは毎回皆さんにお聞きしているのですが——

タイムマシンで大学生の頃の自分に会いに行けたら、なんと声をかけますか。ずばり15秒でお答えください。

上村:(実際に学生起業したが)「変わらず起業したほうがいい」と自分に言うと思います。

ただし、起業したあとに、当日を振り返ると起業した後に、もっと規模の大きい、成長スピードの速い経営者と付き合いを深めることが重要かなと思います。

上村 一行(うえむら・かずゆき)

株式会社 シェアリングエネルギー 代表取締役
アビームコンサルティング株式会社にて大手総合商社の経営改革プロジェクト等に従事した後、2008年、株式会社アイアンドシー・クルーズを設立、代表取締役に就任。トーマツ日本テクノロジーFast50で3年連続Top5を受賞。2018年1月に株式会社シェアリングエネルギーを設立。2020年2月、株式会社アイアンドシー・クルーズを株式会社じげん(東証プライム市場)に譲渡、当社取締役ファウンダーに就任。2021年3月、代表取締役に就任。