新卒時代、周りは優秀な人ばかりだったアスエネ 西和田浩平 | 100年ファンド 〜100 Years Fund〜

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新卒時代、周りは優秀な人ばかりだった
アスエネ 西和田浩平

気候変動

2025.04.19

起業家講師:アスエネ代表取締役CEO
西和田 浩平
モデレーター:GMO VenturePartners
村松 竜


村松:みなさん、先週も投影しましたがこの年末の日経新聞の記事。日本は2050年までにカーボンニュートラル実現を宣言していますが、経産省が新たなエネルギー基本計画を出しました。

2040年までに再生エネルギーの比率を5割に引き上げるという計画です。そういう背景の中、そもそも大企業がどれくらい温室効果ガスを出してて、どれくらい減らさなきゃいけないかを計算して提出することが義務付けられています。それを強力に支援するのがアスエネさんです。

西和田:アスエネの西和田です。今年も貴重な機会をいただきありがとうございます。皆さん、3年生ですか?2年生・・4年生もいますね。将来、起業したいと思っている人はどれくらいいますか。おお、半分以上。ありがとうございます。

村松:とにかく快進撃を続けているアスエネです。今年に入りM&Aが加速しています。創業からまだ6年です。まず最初の資金調達のエピソードをおうかがいします。2019年、まだ前職三井物産の有給休暇中のことですよね。

西和田:今のリード投資家のインキュベイトファンドのイベントにたまたま行って、ベンチャーキャピタリストの本間さんと出会いました。村松さんのJAFCOの後輩ですよね。その場で脱炭素系の事業構想を話したら、「おもしろい。7000万円出すよ」って。ほんと15分とか20分くらいの話の中で。

村松:まだ構想の段階だったんですよね。

西和田:プロダクトもない、チームもいない。でも「こういう社会課題があって、こういうビジネスモデルでいきたい」っていう構想スライドが20〜30枚くらいあって、それをベースに話しました。

Founder Market Fit

村松:その当時は今のビジネスモデルとは違ったんですよね。

西和田:最初は太陽光と蓄電池をリースして20年で回収するモデルを考えてました。でもその時「市場と、西和田さんはおもしろい。」「でもお金のかかるビジネスだ」って言われたんです。
そこから1ヶ月くらいかけて別のビジネスモデルを検証して、今の形になりました。

村松:プロダクトもなくて、社員も西和田さん1人しかいない段階で投資を決めたという・・・。相当、インキュベイトファンドに惚れ込まれましたね(笑)。

西和田:そのとき言われたのが「西和田さんが脱炭素を10年以上やってきたから出すんだ」と。「ずっと脱炭素やってて、いきなりゲームで起業しても投資しなかった」と。

村松:まさに「創業者が市場に合っている」ファウンダー・マーケットフィットの事例ですね。

西和田:あとは、三井物産でベンチャー投資をしていた経験があって、VCが何を聞きたいのか、どこに不安を感じるのか、ある程度わかっていたのも大きかったかもしれません。

村松:社長ひとりの段階で7000万円出すのは、なかなかイレギュラーだと思います。

西和田:僕よりも投資家の意思決定力がすごかったですね。

村松:サービスが始まった時には社員数は何人いたんですか。

西和田:正社員は僕だけですね。エンジニアが2人、業務委託でした。

村松:えっ、その時も西和田さんだけ・・。営業する時、お客さんに「社員は何人いるの」って聞かれますよね?

西和田:はい。「・・10名以下です」と(笑)。嘘ではないので。

この1年でアスエネの“脱炭素×SaaS”はどこまで進化したか

村松:この1年で、ビジネスがかなり増えました。

西和田:今も一番伸びてるのが、企業のCO₂排出量を見える化して削減する支援のSaaSですが、この1年で、脱炭素・非財務情報の第三者検証・保証、アドバイザリーサービス「アスエネヴェリタス」さらには「GX特化型の転職サービス」も始めています。

村松:転職サービスの支援まで?

西和田:「アスエネキャリア」という名前で、GXやサステナビリティ領域に特化した人材支援です。ビズリーチの脱炭素版のようなイメージですね。

村松:展開の速さに驚きますが・・・。グローバル展開もすごいスピードで進んでいます。

西和田:今月ロンドンにも拠点を立ち上げました。6カ国目です。

村松:なぜそこまで早い段階から海外展開に注力しているのですか。

西和田:理由は2つです。ひとつは、お客様がグローバルに展開する大企業なので、「海外の拠点でもサポートしてほしい」という要望があるんです。

もうひとつは、いつかグローバル市場で勝負するために遅かれ早かれ海外拠点が必要だからです。上場する前の今のうちからその経験値を積みに行くのが大事です。最速で1兆円を狙うための布石です。

新卒時代、周りは優秀な人ばかりだった

西和田:入社した三井物産では、同期が120人ほどいたんですけど、まあ下のほうだったと思います。グループディスカッションとかやると、みんなめちゃくちゃ詳しいし、話もうまくて。最初の3年くらいは、マジで仕事ができない奴だと上司にも思われてたと思います。

村松:意外です。

西和田:本当です。でも「志」と「視座」だけは高く持ち続けていたんです。普段から稲盛さん(京セラ創業者)や孫さん(ソフトバンク創業者)の本を読んだり、「社会に対してこういうチャレンジしたいよね」って社会人1年目の時からずっと言ってた。

社会人になって今16年目ですけど、今でもすべての面談とか、たとえば今日も村松さんとこのあと会食したら、その会話を帰宅してすぐパソコンで全部書いて、社員に共有したり実はしてるんです。そういうメモを書くっていうことだけでも、すごい学びの蓄積なんです。だから何でもメモを書く。

人って、地道な学びを続けていくと、あるとき急にボンって伸びるんですよ。続けていると、突然できるようになる瞬間が来る。

学生1:学生時代、気持ち的に落ちた時があったとおっしゃっていました。社会人になり、起業へと進む中、人間的に、心の持ち方的に変化された部分はあったのでしょうか。

西和田:学生の頃や社会人1〜2年目は、正直メンタルが強い方ではなかったです。プロのバンドマンを目指して、その夢がダメになった時、”ダークサイドに落ちる”じゃないけど、山にでも籠るかというほど落ち込んでいましたし。

社会人3年目あたりから安定してきたんですが、当時の上司に「一喜一憂しないことが大事」って言われたんです。「調子がいい時に、いかに浮かれないか」。逆に「しんどい時にいかにポジティブに考えるか」。これを意識していくうちにだんだんと、メンタルがぶれないようになっていきました。

学生2:今の時代に求める若手の人材像というのはありますか。

西和田:今はGPTなどのAIツールがたくさんある時代だから、使いこなして、情報を整理してアウトプットする力があると大きな武器になります。意外と新卒社員でも「生成AIまだ使ったことない」って人もいるので、ここは大きく差がつくところだと思います。

僕は学生に戻ったら何するかって言ったら、起業は1回はしたいと思います。なんでかというと、ノーリスク・ハイリターンでしかないから。

うまくいったら、その経験が得られるし、失敗してとしても、トライしてダメだった、そこで学びがあればそれもゲインだし、学びになる。小さくてもいいから、商売の感覚も分かってくるので絶対やるといいと思います。

学生3:2019年に創業されて以降、非常に速いスピードで事業を拡大してこられました。いくつも大きな意思決定があったと思いますが、どうしてそんな早いの決断ができるのかお聞きしたいです。

悩む時間を減らす

西和田:2つあるかなと思っていて、ひとつは「決断の“量”をこなしてきたから」です。

起業当時、最初は自分ひとりだったので、何でも自分で決めなければいけなかった。実行スピードを上げるためには決断スピードも上げざるを得ないんだけど、日々、判断と実行を繰り返しているうちに、数をこなしていくうちに、自然と判断が早くなっていきました。

もう1つは、意思決定が早い人のそばにいた経験が大きかったです。僕、ブラジルで副社長の“お付き”みたいな役割をしていたことがあって、移動中もずっと隣で「どうやって今の判断したんですか?」と聞きまくってました。その人はとにかく意思決定が早かったんです。

「悩む時間をいかに減らすか」です。LINEメッセージが来ても、すぐ返事しないで、どうしようかなとLINE閉じちゃうことって大学生のみなさんにもあると思うんですけど、そういうのをなくす。

もちろん選んだ合理的な理由を考えるをことも大事です。ただ悩んで、止まっている時間が多いと、決断の“量”が減る。そして、量が減れば成長も遅くなる。

LINEの返信ひとつでも、「後で考えよう」じゃなくて、その場で返す。それだけで判断の量が圧倒的に増えて、結果として成長のスピードも上がると思っています。

意思決定の量が増えれば、もちろん失敗も増えます。でもその分、失敗からの学びも増える。結果的に、判断の質がどんどん良くなっていくと思っています。

「視座」を上げる。より高く、遠く

西和田:僕から皆さんへのメッセージは「視座を上げる」ことです。

僕自身、改めて最近すごく意識しているんです。経営者・創業者の視座が、会社の成長をすべて決めると思っています。

僕は今「時価総額1兆円企業」に絶対なるって決めてるんです。この1年ぐらい言い続けています。1兆円企業になるためのロードマップを、数字も含めて事業計画として作っているんです。・・ちょっと村松さんの前で言うのは恐縮ですが・・・もう実は「1兆円まで結構見えてきたな」が最近の感覚なんです。

というのは一番最初、僕がたった1人で、750万円の自己資金で起業して、今350億円ぐらいの企業価値、つまり5年で5000倍の価値になっている。「あと30倍になれば1兆円」と考えると、意外ともうすぐかなと。

村松:ここからが大変なんです・・・!

西和田:そ、そうですね、重々承知しています(笑)

でもやっぱり会社は社長の視座で決まるって思っていて。

実はうちの投資家の1人に本田圭佑さんがいるのですが、彼にも同じことを言われました。「視座が高いと何がいいかっていうと、人が見えないものが見える」と。遠くまで行こうとすると、見えてくるものが変わってくることを実感しています。

今、ここにいる皆さんは19歳とか20歳ですよね。何でもできます。本当にそう思います。

僕は今30代最後の年で、何でもやりたいことをやってやろう、という挑戦心はまだまだ強いですが、この年齢になると「何でも夢を叶えられる」とは思えない人も少しずつ増えてきます。

でも、20歳ならまだ無限に可能性がある。その年齢で「視座を高く持つ」ことができたら、人生めちゃくちゃ変わると思います。


西和田 浩平(にしわだ・こうへい)

アスエネ株式会社Founder 代表取締役CEO
慶應義塾大学卒業、三井物産にて日本・海外の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業出向、ブラジル分散型太陽光小売ベンチャー出資、メキシコ太陽光入札受注、日本太陽光ファンド組成などを経験。2019年にアスエネ株式会社を創業。CO2排出量見える化クラウドサービス「アスエネ」を中心に脱炭素のマルチクラウド事業を展開中。106億円資金調達。日本・海外6カ国でサービス展開中。2021 Forbes Japan Rising Star Award受賞、2021 Forbes Japan 100に選出。2025 Forbes Japanの起業家TOP20に選出。

これは2025年4月19日に早稲田大学本キャンパスで行われた「早稲田大学政経学部100年ファンド寄附講座 気候テック起業創造演習」100分のご登壇のダイジェストです。この翌週には学生が起業家になりきり、投資家ピッチを演習形式で行います。
昨年のご登壇よりアップデートされた部分を主に記事化しています。