森林スタートアップが
大企業に注目される理由
GREEN FORESTERS
中井照太郎 中間康介
気候変動
2024.06.14
起業家講師:GREEN FORESTERS 中井照大郎 CEO 中間康介 CSO
モデレーター:100年ファンド 村松 竜
中井:グリーンフォレスターズの中井と申します。未来の森を作るために、新しい植林・造林の全国展開に挑戦しています。
この仕事をする最初のきっかけは、高校生の時に観た「ホテル ルワンダ」という映画でした。ご存知の人は・・わぁ、いますか。94年にこの地で起きた大虐殺を扱った映画で、「こんなやばいことが世界で起きている」と衝撃を受け、外語大に進学したあと世界の紛争の勉強をしました。在学中にインドネシアのアチェという紛争地域で留学もしました。アチェは天然ガスが豊富なのですが、中央政府が権益を握っていて、それが元で武力紛争が起きていました。その天然ガスを、日本が輸入していることを知り、調べると商社の三菱商事が扱っていました。ちょうど企業が就職活動のタイミングだったので、僕は面接に行って「御社は紛争に加担している」と言ったところ、「君面白いね」となり、まさかの三菱商事に入社、しかもエネルギー部門、インドネシアの部署に配属されました。
とても楽しかったのですが、大企業には優秀な人はたくさんいて、僕は僕にしかできないことをやりたい、人生を賭けて仕事するなら、儲からなくても社会の課題を解決したいと思うようになりました。5年間勤めた後、たまたま岡山県に「森の管理人」の求人記事を見つけ、もともと山や自然が好きだったので、勢い、移住してしまいました。これが僕の林業キャリアの始まりです。
中間:No.2をしている中間です。九州大学の農学部、林学科の出身です。2年生の時コース分けがあるのですが、農業、畜産、水産など数あるコースの中、林学科は圧倒的に人気がありませんでした。授業を受けても林業は政策的にも技術的にも「ドン詰まり」だと学生ながら感じ、ですが逆に興味を持ち、専攻にしました(笑)。野球部に所属しながら九州中の森でフィールドワークをやり、調査やデータ分析に勤しむという学生時代でした。林業の本場ドイツにまで留学して勉強をしました。
ファーストキャリアとしては野村総研というコンサルシンクタンクに入社しました。はじめは事業開発や国の政策の制度設計などをしました。その後ベンチャー支援政策の事務局担当をした時に、自分でもやりたくなってしまい、プロボノ参加を経て友人とベンチャーを立ち上げました。その過程で、たまたま林野庁から林業ベンチャーを作る政策の相談を受け、その事務局をやりました。そこで中井と出会いました。
林業なら「昔取った杵柄」。自分には分かる解像度があると思っていました。ですが仕事として始めた途端、多くの課題に気づきました。どんなに優れたツールやシステムを作っても、高いモチベーションを持った人に渡さないと意味がないということです。林業の課題を解決するツールやシステムを開発するベンチャーも必要ですが、自ら新規参入者として、あらゆるツールやシステムも使いこなしながら経営する会社、特に業界内での課題が大きい植林専門の会社を作ろうという結論になったのです。
最初の仕事
中井:4年前、植林専門の会社を立ち上げました。「植林を必要としているのは伐採をしている所だ」「伐採をしているのは製材所だ」「関東で一番、伐採をしているのは栃木県だ」と、栃木県の大きな製材所の社長さんの連絡先を探し当てて会いに行きました。すると「山、あるよ!ちょうどいい山。9ヘクタールの。」と現場に連れて行かれました。
これは既に刈った後の写真ですが、行った時は草が2〜3m伸びていました。この急斜面の山が、9haです。9haは東京ドーム2個分です。30分間、必死に作業しても30mしか進まず、とても2人で出来る面積ではないので、慌てて助っ人を探しました。すると森林組合の人が助けにきてくれたり、地元のおっちゃん達が時間のある時にアルバイトに来てくれたりしました。僕らも途中からナチュラルハイになってきて(笑)、「植林イベント」と銘打ったイベントを企画したら東京から30人ぐらい家族連れが来てくれるなど、最終的には皆で楽しく半年間で終えたプロジェクトでした。
中間:1本の木も植えたことない、ビジネスモデルも事業計画もチームも何もない状態で引き受けた、最初の仕事でした。
学生1:「神去なあなあ日常(三浦しをん著)」という林業の小説がすごく好きです。植林って、私たちの想像以上に何十年もかけて計画するとその本で知りました。今、全く経験がないのに半年間で伐採と植林をしたとおっしゃいましたが、地元の方などに教わりながらだったのでしょうか。
中井:「お前ら、こんなことも知らねぇのか」と森林組合のおっちゃん達が教えてくれました。植え方が甘く、最初から全部やり直したりと、やりながら学んでいきました。現場には、問題意識やすごいノウハウを持っている職人が実はたくさんいて、でも組織の中でそれが活かされてないと知る機会でもありました。
村松:その小説は読まれたことあるのですか。
中井:もちろんです。「Wood Job(ウッジョブ)」と映画化もされています。今、質問を受けて僕たち友達になれるなと思いました(笑)。
日本の森林は江戸時代より増えている
中井:あまり知られていませんが、日本の森林は過去400年ほどで面積が最大になっています。江戸時代と比べるとはるかに森林が豊かな時代なのです。
人工林の半分ぐらいは、いつでも伐採して使える状態なのです。ですが、伐採ができておらず、木が有効活用されていません。なぜか。それは、植える人がいないから…というのが大きな理由のひとつです。森というのは、植える確約ができないと、行政が伐採の許可をしないのです。植える人がいないので伐採されない木が森に残っています。
これは海外との比較のグラフです。一番下のフィンランドやスウェーデンは、森の蓄積量の2-3%は常に切って、木材として利用しています。高回転で活用され、50年が木の周期となっています。
一方、日本は森林のたった0.5%しか伐採されていません。回転しないので200年が周期となっています。でもスギとかヒノキって、本来は50年で切っていい木なんです。
中井:今、日本では、伐採した森林のうち35%しか植林されていません。残りの65%は種が風で飛んできて木が生えるというパターンです。そのあと無事に育てばいいのですが、森に戻らないこともあります。そうやって誰の管理下にもなく、放置されている森が増えています。それが土砂崩れなど、災害の温床になっています。
林業には「切る」と「植える」の2つがあります。伐採する人は、実は減っていません。国策として間伐に補助金を出してきた歴史もあり、若い人が起業し重機を購入して伐採従事者になっていったケースは一定程度、見受けられます。
一方で植林の人口は、この20年間で6割減と、凄まじい勢いで減少しています。
村松:どうして切る人はいるのに、植える人がいないのでしょうか。
中井:伐採は機械化が進み、労働環境も改善していく動きがあるのですが、植林は機械化が進んでいないのです。植林の作業は大きく4つ、草刈り、地ごしらえ、メインの植栽、獣害対策で、夏は暑く、きつい現場です。ですが、従事者が減っているのは単純にきついからだけじゃないんです。
働き方と給料の問題です。
通常の「8時間労働」「週休2日」は、造林の職場には合わないんです。5日間の現場仕事は本当にきつい。そこで僕たちは「6時間労働」「3勤+1休」にしました。
学生2:実際の生産効率はどうなったのでしょうか。
中井:1日8時間が6時間になったら生産量が落ちるかと思ったら、むしろ現場のモチベーションが上がりました。3日働いて1日休みだと、実は週休2日よりも1ヶ月の勤務日数が少しだけ多くなるのですが、他の森林組合から転職してくる人もいるほど評判が良いです。
次に僕たちが問題視したのが、林業の給料の低さです。日本の全産業の平均年収(約467万円)と林業(343万円)には120万円の差があります。若いうちはよくても、結婚して子供を育てるとなると厳しいと感じるのが実情です。これをなんとかできないかなと思いました。
村松:植林のビジネスモデルはどうなっているのですか。
中間:基本的に「公共事業」モデルです。山主さんから依頼を受け、僕たちが植林を行い、国や県からお金が入ってくるスキームです。植林はこのビジネスモデルが大半を占めています。
国や県からの限られた予算で、いかに効率よくやるか。同じ管理人員で、より広い現場をカバーするかが勝負です。僕たちはドローンなどのテクノロジーを活用して、誰でもできる仕事にしていくことに挑戦しています。
この「公共事業」モデルにおける取り組みも重要ではあるのですが、そういった効率化のみでは、給与アップやモチベーション維持に限界があると考えました。
村松:ここから、補助金ではなく企業と組む新しい林業のビジネスモデルの話になります!
企業と一緒に森をつくる
中井:森の価値を創出し、その価値を企業に提供することで、単価を倍にすることを目指しています。
補助金にはさまざまなルールがあります。現場ではそのルールに縛られ、クリエイティブな植林ができなくなっています。たとえば「森のために良い木を混ぜて植えたい」という提案をしても、国や県が定めたルールから少しでも外れると、補助金が出ないしくみになっています。
そこで企業に目を向けました。企業の自然資本の充実のための植林の提案をしています。
村松:「自然資本」についてもう少し詳しくお願いします。
中井:森林は多くの機能を持っています。木材を作るだけではありません。生物多様性を保護したり、水源涵養、土砂崩れの防止など、人間の生活に不可欠です。にもかかわらず、我々は森林機能にフリーライドしている状態です。
森林の機能を人間が他の方法で代替すると莫大な費用がかかります。たとえば森の役割のひとつ「水資源の貯蔵」を人工のダムで代替したらいくらになるか。この「代替コスト計算法」で、森林の価値を貨幣換算すると70兆円とも言われています。
村松:森の価値、70兆円ですか・・・。
中井:人間の活動がこの自然資本に悪い影響を与え、その結果、生態系が壊れていけば、人も企業も今までと同じ活動はできなくなります。このことに世界中が危機感を持ち、ある国際的タスクフォースが立ち上がりました。この講座の皆さんは聞いたことがあると思いますが、TNFD(※自然関連財務情報開示タスクフォース)です。
経済学部の皆さんはBS(バランスシート)とPL(損益計算書)はわかりますね。今年の収益を見て、企業の収益力や配当の可能性を評価し、株価が決まります。
今年PLが良くても、来年以降はどうなるか。この時に見られるのが、非財務情報です。企業のブランド力や人的資本、自然資本など、決算書に載らない資産のことです。例えば、リストラをしてエース社員が辞めると、今年のPLは良くなっても、来年以降のPLは疑問が残りますよね。人的資産はじめ、将来の利益を生み出すアセットをどれだけ持っているか。これは企業価値、つまり株価に影響します。
中井:年金基金や生命保険など、長期運用を行う機関投資家は、東証プライム上場企業の株をたくさんもっています。プライム上場企業は2022年からTCFDに沿った情報開示が義務化、その後2023年9月にTNFDの枠組みが公表されたことをきっかけに、運用先企業がどうやって自然資本への依存や影響に対して取り組んでいるかチェックしており、また企業側も開示に向けた準備を進めています。
村松:非財務情報の開示も、大変なんですよね。社員の研修はどの程度やるか、何か問題があった時に通報制度はあるか、とか・・。機関投資家が企業を判断する際に見るんですよね。
中井:僕たちの戦略はここにあります。”植林”を、公共事業における”作業”ではなく、企業が自然資本に配慮して、自社事業の持続可能性を高めるという”ストーリー”にすることによって、植林の価値を高めるのです。
たとえば僕たちは、ある大手通信会社のTNFD対応を行っています。携帯電話の基地局の設置で森林を毀損している可能性があるため、これを補填する森作りを提案しているのです。
村松:大手通信会社がそういう課題を抱えていると知っていたのですか。
中井:最初はざっくり「森で何かしたい」という相談でした。僕たちが、彼らの統合報告書を読んで提案したんです。「沢際に落葉広葉樹を混ぜて植えましょう」と提案しました。落葉広葉樹の混植は、落葉を分解する土壌微生物の作用等により、時間をかけて水を綺麗にする土壌環境を形成していきます。基地局の建設・維持による水への汚染リスクに対する補填の活動です。
新しい市場を作る
中間:企業の非財務情報は統合報告書に書いてあります。僕たちは、企業にコンサルをしながら、その企業の本業が依存している自然資本にあった植林とストーリーを提案をすることで植林の価値としての単価を2倍にすることを目指しています。
学生3:その市場規模はどれくらいあるのでしょうか。
中間:投資家・資本家にとって、自然資本を含む非財務情報の重要性が増していくトレンドはあるため、市場は大きくなっていくと考えています。僕たちの課題である「造林従事者の年収を上げる」ために、高付加価値の森作りで、400億円の市場を作っていくことに挑戦します。
中井:プライム上場企業の、営業利益の上位100社の利益を足すと、22.5兆円です。その0.2%、400億円が植林に回れば、1.7万人の林業従事者の給料を上げることができます。陸の自然を守っている人たちの給料を日本の平均に持っていくためにも、この0.2%を取りに行こうと思っています。
村松:いま存在しない市場を作りに行っているということですね。
中井:また、民間のスキー場を100年かけて森に戻すという仕事も始めています。リゾート運営会社がスキー場を閉鎖する案件です。そもそも自然をかなり改変した環境なので、様々な工夫をしなければ元の森林には戻りません。太陽光発電なども含めて”開発跡地の森林回復”といった取り組みも、今後の企業活動においてはマストになってくると考えられます。
工夫というのも色々あって、ちゃんと森林に戻すための技術的な工夫もあれば、機材の撤去活動と連携することによって全体費用を抑える、などのプロマネ的な工夫などもあり・・・僕たちが森づくりの視点でいろいろ提案しています。
学生時代の自分には「勉強しろ」と言う
村松:最後に恒例の質問をします。タイムマシンで学生時代の自分に会いにいけるとしたら、なんて声をかけますか。お1人ずつお願いします。
中間:勉強しろと言います(笑)。僕は学生の時から林業を勉強していましたが「もっとできたな」とすごく思っていて、例えば生物多様性の話をする時、1つのことを知っているだけじゃ駄目なんです。木のことも、水のことも、鳥のことも知らないといけないんです。「もっと広く、もっと深く勉強しろ」と自分に言いたいです。
中井:僕も同じです(笑)。僕は、課外活動でアフリカやインドネシアに行きましたが、今、林に携わっている中、知識をもっと広めておけばよかったと思っています。森に関することだけではなく、いろんな分野を学ぶ時間を持っている学生時代は、本当に貴重です。「すぐこの年齢になってしまうから、本当に慌てた方がいいぞ」と当時の自分に会ったら言うと思います。
中井照大郎 CEO
中間康介 CSO