起業家はつねにファイティングポーズ五常・アンド・カンパニー 慎 泰俊 | 100年ファンド 〜100 Years Fund〜

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起業家はつねにファイティングポーズ
五常・アンド・カンパニー 慎 泰俊

教育

2025.06.14

起業家講師:五常・アンド・カンパニー
共同創業者 代表執行役CEO 慎泰俊
モデレーター:GMO VenturePartners
村松 竜

村松:今週は特別ゲストです。五常・アンド・カンパニーの慎さんです。この授業では繰り返しスタートアップは「創業チーム」が重要と話してきました。五常はDay1からグローバルチームで、世界でマイクロファイナンス事業を展開しています。

慎:どうも皆さま、こんにちは。慎です。

大学時代はデモとバンドと岩波文庫

慎:私は大学時代は人権弁護士になろうと思っていました。理由はナチュラルで、マイノリティとして生まれ育った人間なので、世界の不条理をなくしたいという思いからでした。

皆さんが生まれた頃の2001年に、9. 11と呼ばれるテロがアメリカで起きて、アフガニスタンで戦争が始まったのを見て、これは絶対におかしいとデモに参加しました。 今もし私が大学生だったら間違いなくガザで起きてることへの反対デモに参加していると思います。

でも世の中の仕組みを動かしてる人たちは、実はデモなんて気にしないんだって、デモに参加するとなんとなく分かるんですよね。

大学時代は本当に、人権運動とバンド活動と読書しかしていませんでした。当時の私はお金も知識もなく、読む本の8割は岩波文庫と岩波新書でした。

大学卒業後は留学してMBAをとりたかったのですが、就業経験がないとなかなか難しく、金融の勉強をしたかったので代わりに国内の大学院を探しました。進学したのは奇しくも早稲田大学のファイナンス研究科です。

大学院入学のタイミングで始めたバイト先がモルガン・スタンレーでした。バイトと言っても9時ー16時の派遣社員のようなもので、そのまま正社員になりました。はじめは仕事をしながら大学院に行っていました。授業は基本的に夕方だったので、夕食に行くふりをしてオフィスを抜け出し、授業に出て(笑)、オフィスに帰ってきて深夜の1時、2時まで働く、そんな生活をしてました。

財務モデルを作るのがメインの仕事でした。 のちに「外資系金融のエクセル作成術」っていうタイトルの本を書くんですが、今もこれは投資銀行や商社で働く人の教科書になっているそうです。

村松:(3年生のティーチングアシスタントに)持ってるよね。

慎:ありがとうございます(笑)。モルスタで4年働いた後、ユニゾンキャピタルに移りました。そこでM&Aの勉強をしました。32歳のときに、五常・アンド・カンパニーを起業しました。 

1万3000人の仲間とともに、マイクロファイナンスを届ける

慎:五常・アンド・カンパニーは、ホールディングス(持ち株会社)にフルタイム従業員が40人ほどいる、日本の会社です。

事業拠点としてインド、タジキスタン、カンボジア、ミャンマー、スリランカに連結子会社があります。アフリカ7カ国で事業展開している会社や、ジョージア、ウズベキスタンにも少数持分の会社があります。それらを五常が束ねています。合計すると約1万3000人の社員が、世界中で金融機関としてお客さんにマイクロファイナンスのサービスを届けています。

世界中には今も、銀行口座がない人は途上国だと3ぐらいいます。 

金利や返済条件が適切でない人、ATMの場所が不便だったりという人はもっともっと多いと言われていて、そういった人々に対して、有益かつ手頃な価格の金融サービスにアクセスできる状態を作るっていうのが、金融包摂がやっていることで私達が世界中でやろうとしていることです。


マイクロファイナンスというのは少額金融サービスです。 融資、預金、保険、送金などです。

私たちはまず、支店を作ります。例えば南アジアの場合、現地の従業員が村に行き、集会を開いてもらい、事業の説明をします。お金を借りたい人の審査をします。そして融資をします。お客さんの9割以上は女性です。彼らはそのお金を元に事業をして、私たちに返済します。

私達のお客さんはこういう人たちです。

例えば牛を200ドルで買って、1年半で800ドルで売るとか、小さい売店をやっているとか。

もともと米を作っていたけど天候が変わりやすいのですぐ育つきゅうりを育ててるとか、ミシンを買って服を作るとか。

慎:五常・アンド・カンパニーはB Corp認証を取得しています。(※B Corp:環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証)

社会環境パフォーマンス管理や、インパクト測定にもしっかり取り組んでいます。

コストはかかりますが、従業員満足度も上がって、結果として離職率が下がることにもなるんですね。また助成金などが得やすくもなります。少し前もカタール政府から3億円ほど寄付をいただきました。

私達の仕事はお金貸しなので、このような取り組みはレピュテーションを守るために重要なんですね。グループ全体で約10−20人体制で取り組んでいます。

金利は高い・低いではなく「妥当かどうか」

慎:マーケットは極めて大きくて、世界で今140兆円はあると言われています。過去15年のインドのマイクロファイナンスの市場成長率は18%で、15年間ずっと伸び続けています。世界中で全然足りていないのがマイクロファイナンスです。

発展途上国の金利というのは高いです。事業機会から生み出されるリターンが高いからです。

日本でレストランを始めると、リターンは10%とかだと思います。一方で、マイクロファイナンスのお客さんたちの商売では、100%などのリターンも少なくないです。

肌感覚では、途上国での銀行からの借入金利は、事業リターンの30〜40%です。預金の金利は、事業リターンの10〜20%という感じです。金利というのは相対的なもので、事業投資機会との均衡で決まるんですね。日本では預金の金利が10%というと驚きますが、新興国では普通に見かける数字なんです。

村松:さーっと慎さん話してるけど、みんな分かった?慎さんの本の68ページに金利とはどうやって決まるのか、詳しく書いてます。慎さん「事業リターン100%」をもう少し詳しく説明していただけますか。

慎:ニワトリが一番わかりやすいです。途上国では、ニワトリは一羽500円で買えます。途上国の場合、餌はそこら辺の木の実とか、農場で作ったものを少しあげれば育つので、飼育にコストがかからないんです。

ニワトリは1年で100〜200個の卵を産みます。卵は1個10円〜20円で売れるので、1年で100個産んだ場合、1個10円ならリターンは200%です。

日本人は所得、つまり人件費のコストが高いぶん、事業投資から得られるリターンは当然下がります。途上国でも、人々の所得が上がれば事業リターンも下がります。それに合わせて金利も下がっていきます。

マイクロファイナンスの回収率が高い理由

学生:マイクロファイナンスは返済率が非常に高いと言われています。なぜでしょうか。

慎:みんなが見ている前でお金を返すからです。

集会所に集まって、 5人組などのグループを組んでお金を借りて、返すんです。連帯責任なので、みんな信用できる友達を連れてきてグループを組みます。なので審査のコストも下がります。

返済履歴が積み上がっていくと連帯責任はなくなり、個人で借りられるようになります。でも、集会所はずっと続きます。これは大事で、みんなが見てる前の方が、お金って返しやすい、つまり返済率が上がるんです。人間ってそういう生き物なんですよね。  

ただフィジカル、対面は人件費がかかります。金融の事業っていうのは、融資する金利とか調達する金利が決まっているため、その間でやりくりする必要があります。お金を勘定する時間や紙を扱う時間は、少なければ少ない方がいいのは事実です。

一方で融資申込・審査、貸出・回収業務のデジタル化は非常に進んでいます。審査は日本の普通の金融機関よりも早いと思います。ただ回収率は対面にはかないません。

結果として今増えてるのは「フィジタル(フィジカル➕デジタル)」です。集会はするけど、スマホなどを使ってキャッシュレスにする、という方法です。

村松:マイクロファイナンスは世界中にありますが、五常のように世界中で「束ねる」会社はほとんどありません。

慎:束ねるといろんな良いことがあるのですが、一番は資金調達のコストが下がることです。 

金融っていうのは「どこかからお金を持ってきて、どこかにお金を貸す」仕事です。

この「持ってくる」の一つは預金(銀行なら預金者から資金を預かる)で、もう一つは他の金融機関からの借入です。そして、借入は規模が大きくなるほどコストが下がっていきます。

小さい途上国の1カ国でやるだけでは、達成できる事業規模がそこまで大きくならないですが、複数カ国になると違ってきます。 今うちは連結の営業貸付金が四桁億円なんですが、その規模になるとコストが下がります。これが1兆円とか10兆円とかになってくると、もっと下がっていきます。

束ねることの2つ目のメリットは、金融業って、規制対応は国ごとに変わりますが、それ以外は基本的に8割は同じなんです。デジタル化含め、事業の改善が一つの国でうまくいくと他の国でもそれが使えるのです。

後回しにしたコストは複利で返ってくる

慎:「民間版の世界銀行」を作ろうと始めたので、最初からグローバルチームと決めていました。共同創業者はインド人です。 私は留学経験もありませんが最初から公用語は英語です。


(五常・アンド・カンパニー公式サイトより)

スタートアップをやる時、序盤ってとにかく大変なので、いろんなコストを後回しにしがちなんですね。 その後回しにしたコストは絶対に複利で返ってくるっていうのが私の教訓です。

どういうことかというと、のちにグローバル展開するなら、Day1からチームがグローバルじゃないと成功する確率はほぼゼロだと思います。 

ハードウェアだったら別ですね。 自動車とか。 服とかは全然問題ないと思います。 プロダクトはそういうのが要らないんだけどサービス業の場合です。理由は結局コストです。

日本の人たちだけで集まると、基本「あうんの呼吸」で回るのでコミュニケーションコストはめちゃくちゃ低いんですね。 そうすると物事は進みやすいですが、それはグローバル展開時に必要になる「多様性を受け入れる体制を作るコスト」を、後回しにしていることになります。

そのコストは、後半になればなるほど大きくなるんです。 複利で効いてくるんすよね。

日本人だけでチームを作って、成功してからグローバル展開し、そのタイミングで外国のメンバーを入れるのは、なかなか・・大変だと思います。

慎:同業他社比でいう当社の強みは、五常本体が日本にあるため、日本の投資家にアクセスがあります。 これはみんなに羨ましがられます。日本で金融包摂に融資をしたい人が最初に思い浮かぶのは当社、となってきているため、お金が安く調達できるということです。

もう一つが、世界経済フォーラムが毎年100人選ぶ世界のヤンググローバルリーダーが、五常にはグループ内に5人います。すると大抵の国の大臣とか、中央銀行の総裁に会いに行けます。 これは各国でM&Aをする時、つまりネットワーク勝負になる時に大きな威力を発揮します。

この良い循環を作るにはある程度の規模が必要なんですが、ようやく道筋が見えたかなと思っています。

自分より優れた人を集めるには

学生:経営チームに、ヤンググローバルリーダーなど素晴らしい人がいるのは、慎さんにどういう魅力があるからだと思いますか。

:魅力かどうかは分かりませんが・・。起業家が作る組織っていうのは基本2タイプだと思っていて。自分が全部決める系の会社、もしくは自分より優れた人を集める系で、私は後者です。特に自分たちの事業的には後者じゃないと駄目だと思っていて。

後者を選ぶために重要なのは、神輿に乗せられる覚悟をすることですね。

しかしそれは自分のスキルを伸ばすことを放棄しなきゃいけなくなるんですよね。これって、もともと起業家の心理的な安全性みたいなものが高くないと、もしくは自己肯定感が高くないと、できない仕事なんですよね。

なぜかというと、うちの会社は多分、私がいなくても何の問題もなく回り続けるわけです。自分より優れた人に任せていくと、自分が直接手を触れることが減ってきます。これって実際やってみると結構不安になるんですよね。ある日「自分がいることの意味は何なんだろう」と思うようになります。

それを乗り越えられると、次のフェーズに行くんだなと思っていて。

じゃあ神輿に乗った人の仕事は何かっていうと、

まず「どっちに行くか」を決めることです。 ビジョンを作る。
次にそのビジョンを実現するのに大切な人は誰か、を理解する
そしてその人たちに働いてもらう

基本この3つです。

スティーブ・ジョブスも同じことを言ってました。「ビジョンと、人を見出すことと、人に働いてもらうこと」。
本気で「人に任せる」をしなければ出来ないと思います。

私は自分がいなくなっても続く事業にしたいので、自分より優れてる人に来てもらう必要がありました。でもそれに気づいたのは創業から5年目でした。結構、時間かかっちゃったんです。でもそれからは優れた人が来てくれるようになりました。

村松:五常の経営陣はほんと最強で。サンジェイさんはマイクロファイナンス業界では誰でも知っている人です。CFOの堅田さんもスタートアップ業界では有名なスーパーCFOです。ここまで揃えられるものかと私も驚きました。

本当にやりたい仕事

慎:「本当にやりたい仕事は」という講義のお題をいただいているので、最後にその話をします。

基本「機会の平等」に関わる仕事が私の中ではマストです。それと関係のない仕事は受けないです。
あとは大きなしくみを変えられる仕事、かつ現場に行ける仕事です。

私は現場が好きなんです。 途上国の現地に翻訳の人だけと一緒に行き、農村の人にインタビューするのが一番好きなことです。これなんで楽しいかっていうと、現地の支店の人、つまり金融機関の人と一緒だと、相手は本当のことを話してくれないんですね。私が翻訳の人だけと行くと、本当にいろんなことを教えてくれます。農村に寝泊まりさせてもらうことも好きです。

でも一方で、しくみを変えないと嫌だと思う気持ちも強いんですよね。

しくみを変えないと、自分の目の前の人は何とかできても、自分がたまたま出会わなかった大勢の人の役に立てないので、しくみを変えることにもすごくフォーカスしています。 

他に、私が過去に教わったことを3つ話したいと思います。

起業家はどんな時でもファイティングポーズ

起業した初期にすごくお世話になった梅田望夫さん(「Web進化論」の著者)に言われたことです。10年ほど前、一度初期チームを解散したんですが、その時、私はすごくしょぼくれていました。梅田さんはそれでも最初の投資家になってくれたんですが、その時こう言われました。

「慎さん、起業家はどんな時でもファイティングポーズを取っていなきゃだめだよ」

これは本当にそうだなと思います。大変な時にしょぼんってしてると、まず投資家は不安になります。 同僚も当然、不安になります。

そうすると、本当だったらうまくいったかもしれないのに、うまくいかないことがいっぱい起きるんですよね。 

100回「大丈夫」と言う

私がファイナンスで苦労していた時に友人がくれたアドバイスです。五常は、創業から最初の法人の投資家がつくまでに3年かかったんですね。日本の投資家にとって、途上国のこういう事業に投資をすることは馴染みがなかったからとても時間がかかったんです。

その時友人が「100回大丈夫って言えば、大丈夫になるよ」と言ったんです。いろんな技術論のアドバイスよりも、一番役にたったのがこれです!

「お礼をきちんと伝える」

人間って、調子がいい時って、つい調子に乗るんです。 でも、調子が悪くなって、他人にお願いしに行く時に、他人は調子に乗った人には石を投げるんですね。

たいていの事業は、たまたま時流に乗った、それこそAnthropicとかOpenAIじゃない限りは、絶対に下降局面がくる。 そういう時に会社が続くために、経営者は本当に頑張らないといけないんだけど、お礼っていうのはすごく重要だと思っています。創業以来、私はかれこれ600通は手書きのお礼状を書いています。

村松:断られた投資家にも、手紙を書いていましたよね。

「これで行ってこい」父親が手渡した封筒

学生:機会の平等を広げたいというお話でしたが、慎さんご自身に原体験があったのでしょうか。

慎:大学院の進学が決まった時、私の家にはお金がなかったんです。入学金と学費、120万円だったかな。

そういう時いつも何とかしてくれていたのは私の母で、母がいわばうちのCFOみたいな存在だったんですね。お金を何とか回す担当。その母が、その時はうまくいかなかったんです。

今もそれはすごく覚えていて。私が外出先から帰ってきた時、ちょうど母が受話器を置いたタイミングですごい悲しそうな顔をしていて。

自分でも友人にお金を貸してほしいと奔走しましたが、誰も貸してくれませんでした。

私と父っていうのは若干、複雑な関係性があったんですね。 父は朝鮮学校で先生をずっとやっていて、私は父が望むようには生きていなかった。

人望のある人なので、父がどこかで頭を下げれば、お金はなんとかなるだろうというのが母の見立てだった。でも私の父は、自分の人望を家族や自分のために使うことをしない人間なんですよね。 

西郷隆盛の言葉に、・・って私の父は見た目も西郷隆盛にすごく似てるんすけど(笑)、「自孫に美田を買わず(自分が培ったものは社会のために使う)」。この信条が強い人だったんですね。だからこそ人望もあったんだと思うんですけど。

その父が、お金を持ってきてくれたんです。 うちの狭い居間で、胸ポケットから110万円入った封筒をポンと出して。「これで行ってこい」って。

そのままATMに走り早稲田大学に振り込みました。そして私は大学院に行きました。懐かしい思い出です。

大学院に入ってモルガン・スタンレーで働き始めるとお金はすぐ返せました。 あるべきところに、あるべきお金があるって、人がいい人生を歩くためにも重要なんだけど、商売としてもうまく行く確信があるのは、自分の実体験から得たものでもあるんです。質問の答えになっていますでしょうか。

学生:はい!それが、マイクロファイナンスに出会った時に「がちゃん」って、はまる感覚がありましたか。

慎:そうですね。私たちって、日本に生まれた時点で、グローバルに見た時には勝ち組なんですね。勝ち組という言葉はあまり良くないけれど。

途上国の農村に生まれるって、結構つらいんですよね。インドでも今、ある程度、事業できている人の多くは中流階級の出身です。農村出身の人がのし上がるって、結構大変です。やっぱりそこはアンフェアだなって思う。

そこにファイナンスをつけることには、意味があると思います。

私達のお客さんは、学校に長く行けなかった人たちが多いんです。頑張って稼いで「子供の食費」と「子供の学費」にするんだ、っていうのが、彼らの稼ぎの用途の不動のトップ2なんです。 そんな話を聞くと、この仕事の意義を感じます。

動じない。それが、起業家のファイティングポーズ

学生:「起業家は常にファイティングポーズを取ってなくてはいけない」というのは、何をもってファイティングポーズって言うんでしょうか。

慎:そうだな。つらい時につらそうな顔をしない。

学生:それはピュアに外から見た時に慎さんがどう見えるか、という次元の話なんでしょうか。

慎:格闘技ってやったことありますか。見たことはある?僕は格闘技やるんです。空手は20年、ブラジリアン柔術が今5年目なんですが、パンチを食らってパンチが効いてる時って、やっぱり顔に出るんですよ。

だけど、気持ちが強い選手ってのはそういう時も平然としてるんですよね。相手はそれに押される。「こんなに殴ったの効いてないのかよ」ってなるからです。

学生:それってアロガンス(傲慢)と紙一重だと思うんですけど、そう見られないためにはどう意識してますか。

慎:普段通りにするっていうことですね。でも体調が悪かったりすると知らず知らずに批判的になってしまう時もあるため、体調管理も重要だと思ってます。

村松:五常に投資させていただいて4年になります。世界中でマイクロファイナンスを展開している中、テロやクーデターが起きたり、コロナもあったし、今は戦争まで起きています。この4年で、五常が持つ世界のマイクロファイナンス各社で、本当に言葉で言い尽くせない深刻な局面が何度もあったんですよね。

株主報告が毎月あるんですけど、世界情勢が怪しくなるたびに投資家は「慎さん、どう説明するんだろう」って思いながら話を聞くんです。その表情を見るわけです。でも慎さんはものすごく冷静に「全然問題ない」って顔をして現れる。それでみんな安心する。

そして慎さんは「なぜ大丈夫なのかを言います」と、起きている状況を、悪いことも含めて全部言うんです。隠さない。誠実に説明をしてくれて「でも大丈夫だと思う」と。その表情と声のトーンで、みんな安心するんです。

慎:私はとにかく一生懸命やるけど、心のどこかで「全てのことは、所詮は大したことじゃない」と思ってるんです。

谷川俊太郎が良い言葉を残しています。『時々思う、死んでから人は、生きていたことが、生きているだけでどんなに幸せだったか悟るんじゃないかって』。

しんどいことって色々あるんですけど、生きてるからであって、死んだらどうせ全て終わりなので。そう思うと、いま起きていることなんか、死ぬわけでもないし、一生懸命やるだけだな、って思います。

村松 最後の質問です。タイムマシンで、学生時代の自分に会いに行けたらなんて声をかけますか。

慎:うまくいかないときは自分の責任だって早く気づくこと」。

人間は失敗するんすよね。一瞬は、その失敗を直視できないものです。人間って大抵そうだと思うんだけど、

私の人生で、大変なことから乗り越えてきた時っていうのは、失敗を直視してこそ、自己改善、自己改革が始まって、不思議と、私が改心すると物事はうまくいってきた。

大学生の時って周りから自分がどう見えるか気になるし、うまくいかない時も他人のせいにしたくなる時があると思うんですけど、「うまくいかないのはお前のせいである、と認めろ」って言いますかね。

村松:今までのどの起業家とも違う、慎さんらしい回答です。ありがとうございました。

(須賀 副総長も聴講・質問されました)
(担当教員 政治経済学術院 河村教授)

慎 泰俊(しん・てじゅん)

五常・アンド・カンパニー 共同創業者 代表執行役CEO 

モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルで8年間にわたりプライベート・エクイティ投資実務に携わった後、2014年に五常・アンド・カンパニーを共同創業。グループ経営、資金調達、投資など全般に従事。

また金融機関で働くかたわら、2007年にLiving in Peaceを設立し(2017年に理事長退任)、日本初のマイクロファイナンス投資ファンドを企画。過去15年以上にわたり社会的養育を受ける子どもの支援に携わる。2021年に日本児童相談業務評価機関を共同設立。

世界経済フォーラムのYoung Global Leader 2018選出。朝鮮大学校法律学科、早稲田大学大学院ファイナンス研究科卒。