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大学でこそ学びたい
気候変動への起業というアプローチ
村松 竜

気候変動

2024.04.12



100年ファンド 村松 竜
早稲田大学 カーボンニュートラル社会研究教育センター 副所長
政治経済学術院政治経済学部 下川 哲准教授

スタートアップに出資するのがベンチャーキャピタル

村松:簡単に自己紹介を。94年に卒業してVC、ベンチャーキャピタルのジャフコに就職しました。ベンチャーキャピタルという職種を知ってる人・・半分ぐらいですね。

AppleやGoogle、いわゆるGAFAMも、最初は数名で始めたスタートアップでした。この写真はGoogleの共同創業者の2人です。スタンフォードの大学院在学中に「検索エンジン作ろう」って始めた人たちです。シリコンバレーはそういう会社がワーッと集まっている地域です。「親子のような、切っても切れない関係」とここに書いてありますが、VCはこういう若者たちにお金を出す人たちです。VC自身も少人数で、10人とか20人ぐらいの集団です。このクライナー・パーキンスは世界的に大きなVCですが、創業すぐのGoogleに投資をしました。VCは、夢だけは大きいがお金がない起業家に、お金をぽんと出します。無担保で、数千万円、時には数億円出すこともあります。しかも融資と違い、返済を求めない。出しっぱなしです。代わりにそのスタートアップの株主になります。株式を取得します。時には経営戦略に助言をしたり、取締役になったりもします。

投資したうち、うまくいく会社は3割ぐらいと言われています。7割は倒産するか、どうにもならない状態になってしまいます。これ、選びに選んだ結果の数字です。VCから投資を得られず、そもそもビジネスが始まらない会社もたくさんあります。本当に大きくなるスタートアップは1%とか0.1%とか、ものすごく確率の低い話なんです。先ほど、アスエネ社でインターンしていると自己紹介してくれた人がいましたが、アスエネぐらいの規模になるのは1%以下、非常に狭き門なんです。

さて、VCの出した7割はリターンがない。しかし、残りの3割の中から、時価総額1億円のバリュエーションで投資した会社が1000億円になることがあります。投資倍率が1000倍です。7割が倒産しても、この3割で十分にペイします。

「そんな金融ビジネスがあるのか!」と私は大学3年生ぐらいの時に知りました。これがベンチャーキャピタルです。

ここで時価総額という言葉が出てきましたが、分かる人・・3人ぐらいですか。この講座でも今後、頻繁に出てくる単語なので少しだけ解説します。時価総額は株価✖️発行株数で計算され、その会社の価値、つまり値段を表す指標です。

試しに「ソニー、時価総額」と検索するとぱっと出てきます。ちなみにソニーは今16兆円ぐらいですが、ごく簡単に言えば、16兆円出せばソニーがまるっと自分のものになるわけです。メルカリが今3000億円ぐらいです。上場していると、毎日の株価に連動して時価総額も変わります。日本で一番、時価総額が大きい会社はトヨタで60兆円です。日本で1兆円以上の会社は今160〜170社ぐらいあります。

Googleだと300兆円とかそういうレベルです。クライナー・パーキンスが投資した時は、おそらく100億円弱とかでした。上場した時は3兆円くらいでしたから、上場時に彼らのシェアが10%だったとしたら彼らの持ち分は3000億円。その3割(900億円)が成功報酬として、数名の投資担当者に分配されたんです。ということで、大きく成功すると巨額の富が転がりこんできます。クライナー・パーキンスで一番有名なパートナー、John Dorrさんは2年前スタンフォードに70年ぶりとなる新学部、それも気候変動問題に特化したサステイナビリティ学部を個人で1500億円寄付して新設しました。こんな風にアメリカの富豪というのはどんどん次世代に寄付します。要はこれがベンチャーキャピタルです。

さっき5人ぐらい「起業に興味がある」って自己紹介してくれた人がいましたが、私も大学生の頃に起業したいと思っていました。そこで起業してる先輩の会社で働いてみたりしたんです。今でいうインターンですね。でも、あまり大きくならないんです。起業しても会社が大きくならないと、面白くないと思ったんですよね。どうすれば会社を大きくすることができるかをまず勉強しよう、VCならできる、と新卒で一番大きいVCに入ったんです。

入社5年目でシリコンバレーに駐在しました。起業したばかりのGoogleのような会社がたくさんあって、現地でも投資の現場を見て、いよいよ自分もやろうと現地で辞表を出して帰国し、決済会社を起業しました。その会社が巡り巡ってGMOペイメントゲートウェイの一部になり上場した後、今度はスタートアップの応援もしたいと、VCであるGMOベンチャーパートナーズも作り、要するに上場企業の経営とVCの両方を兼任しています。

VCとかスタートアップって、何をやってるかっていうと、未来を作ってるんですよね。こういう問題が社会にあって、どうやって解決するか、その解決策がプロダクトで、それが成長すれば問題が解決され、未来が作られていく。

この20年は、インターネット革命があって、その後はスマートフォンの時代が来ました。次の10年は何が大きな産業になるかと考えると、気候変動の分野ではないかと思います。かつてない規模の人類共通の問題ですから、ここを解決しながら事業化し大きな産業になっていくのは自明です。だからこの講座を「気候テック起業創造」にしました。

このままでは気温上昇が1.5℃以内に抑えきれず、3℃とか4℃がメインシナリオになり始めています。世界ではすでにいろんなスタートアップが立ち上がっています。典型的なのはテスラという電気自動車。20年前にはまだ存在しなかった会社です。「世界のエネルギーを転換する」が彼らの社是で、バッテリーや充電ネットワークを作ったり、発電する屋根まで作って、単なる自動車会社ではなくなっています。時価総額も、日本一のトヨタを抜いて70兆円ぐらいあります。

気候テックのLandscape Map (カオスマップ)

日本にも気候テックの企業家が出始めています。このスライドは、気候テックのスタートアップの代表的な会社を、分野ごとに分けたLandscape Map、日本語でいうカオスマップです。「気候テック、カオスマップ」で検索すると色々出てきますが、これは我々で作ったオリジナルマップです。

分野ごとに、資金調達ができている会社順に並んでいます。来週来てくれるアスエネもここにいます。他のライバルたちもいます。

ちなみにこの「海外企業例」にあるこの「オクトパスエナジー」はイギリスの再生エネルギーの電力会社ですが、ものすごく成長していて、日本で東京ガスさんと一緒に事業を始めています。海外のスタートアップは大きくなると日本にも進出してきます。そしてこの海外例はみんな、ユニコーンです。ユニコーンというのは、時価総額が1500億円を超えている未上場のスタートアップのことです。日本はまだ1社も気候テックのユニコーンがなく、諸外国に比べて遅れていますが、どんどん追い付き始めています。

出てしまった二酸化炭素を吸収するテクノロジーがカーボン・リムーバル。大気中の二酸化炭素を吸い込む巨大な機械を作ります。EVはそもそも排気ガスを出さないジャンル。いろんなジャンルが群雄割拠しています。皆さんもこれを参考にいろんなビジネスアイデアを考えていただくといいと思います。

下川准教授:このカオスマップの中の企業、みんなどれくらい知ってましたか。ちなみに来週この授業に来てくれるアスエネを知ってる人って何人ぐらい?・・・インターンやってる彼だけか。やっぱりそうだよね。ビジネスモデルを考える上でも参考になる企業がここにリストアップされているので、ぜひ事例として見てもらえればと思います。

VCの打率

下川准教授:私から1つ質問があって、さっきベンチャーキャピタルが、選びに選んでも打率が3割というお話がありましが、国際的に違いはありますか。村松さんは今インドやシンガポールでもスタートアップ投資をしているというお話でしたが、日本と比べて東南アジアなどはリスク高かったりするのでしょうか。

村松:傾向差はありますが、いろんな国のVC協会の数字を見ると、それほど変わらないんです。でもトータルで見るとアメリカがやっぱり成績がいいかな。日本と他国で1つ顕著な違いがあるのは、日本は「1000倍」みたいな案件はあまり出てこないんです。手堅く上場して、ミドルリスク・ミドルリターン。インドやアメリカだと、潰れる会社も多い一方で、稀にGoogleみたいな1000倍が出てきて、それを当てたベンチャーキャピタルは本当に巨額の富を得ます。でも日本でそれほどのVCはまだないんです。なぜならGAFAMみたいな会社がないからです。時価総額で100兆円を超える会社は日本に1社もありません。

下川准教授:スタートアップの成功率の話でしたが、ベンチャーキャピタルは倒産しないんですか。

村松:ありますね。VCはもうシンプルに、次のファンドが集まらなくて解散、という終わり方です。VCは会社ではありますが、最初は3人ぐらいで集まって、投資家から10億円とか20億円とか集めて、10年後に2倍、3倍にして返しますってやるんです。1社も当たらないともう元本すら返せないので、いきなり1号ファンドで解散です。

下川准教授:何割ぐらいがそうなってしまうのですか。

村松:統計はあまりないですが肌感覚では、10年経つと3分の1ぐらいになりますかね・・。今、我々は幸いにして7号目ファンドで、なんとかサバイブしています。自分が始めた20年前、同時期にVCを始めた同業も、確かに、もう3分の1もいないかな・・。

学生1:VCの打率に関して、会社設立したばかりのシードに投資するファンドと、上場直前に投資するファンドがあると思うんですけど、その2つの打率の違いはどれぐらいあるかお聞きしたいです。

村松:なかなかツウ好みの質問をいただきました。打率はすごく違います。シード期、会社ができたばかりの打率はやっぱり数%です。打率1割もいかないです。その代わり、当たると30倍とか100倍になったりします。一方、上場直前で投資すると打率は7割ぐらいです。確実に出塁ができる。送りバントみたいな感じです。その代わり満塁ホームランみたいな点は入りません。2−3倍ぐらい。でもそれをコツコツやっていると、結果的に全体でそこそこ良いリターンになったりします。ひたすら送りバントをするチームと、満塁ホームランしか狙わないチームと両方あります。

下川准教授:村松さんはどちらですか。

村松:その中間ぐらいです。

下川准教授:2塁打ぐらい?

村松:両方やります。我々は「フィンテック」というテーマに限定して投資をしていて、その中では送りバント狙いも、満塁ホームラン狙いも、両方やります。フィンテック分野に絞るという、一般のVCとはちょっと違う戦い方をしてるんです。

学生2:気候変動が次の大きな産業になるというお考えがある一方で、フィンテックという分野だけで投資をされている理由は。

村松:そういう質問が当然くると思っていました。自分が起業した領域も決済代行という、フィンテックのど真ん中なので、まず自分自身がフィンテック領域に明るいから、応援もしやすいんです。同じ業態で、すでに上場までに成長させた先輩としてみてもらえるので、ありがたいことに起業家に信頼してもらいやすく、つまりすごく仲良くなれるんです。「フィンテック好き」同士で、それぞれの祖国で同じ問題に立ち向かう同志のような感情も手伝って。ただ、私は学生時代から環境団体に参加したりしていたのですが、コロナ禍の最中、気候変動問題に取り組む必要性を強く感じ始めて3〜4年ぐらい前に、今の7号ファンドは「フィンテック&脱炭素」というファンドテーマにしました。気候テックも加えたのです。だからアスエネもそのファンドから投資をしてるんです。

ビジネスモデルとピッチを学ぶ意味とは

村松:成功するスタートアップには一定の傾向があります。「社会の問題を解決する」という特徴があるんです。
これがないとあまり賛同もされず、実は急成長もしないんです。
ただそれだけじゃ駄目で、ビジネスモデルの革新性あるかとか、他人の大きな資本を使って短期間の成長を目指していないと「いいことやってるね」で終わってしまう。

ビジネスモデルに革新性があるかは非常に大事です。ビジネスモデルの勝ちパターンみたいなのがあり、この講座ではそこを話していきたいと思ってます。何人か起業家をお招きしますので、彼らのビジネスモデルで学んでいきたいと思います。

そしてこの「ピッチフレームワーク」。これまで何千人という起業家のピッチを見てきました。私自身も起業して上場もして、今も毎年、株主から質問される立場でもあります。投資する側とされる側、両方を20ー30年間やってきた中で、お金を出してもらうためのピッチに重要な要素は、究極的にこの3つだと思います。本講座の学生向けに、最も重要な要素のみを残し単純化してみました。

市場」×「事業内容」×「創業チーム」です。足し算でなく、かけ算というのがミソです。たとえば1つの丸の配点が5点だとして、3つそれぞれが5点だと、積は高得点ですが、どれか1つが1点だと、あまり得点は上がりません。そして1つでもゼロだと、全部ゼロになってしまいます。

この「市場」というのは「Where」、どこで勝負するかという話です。誰のどんな不便さ、ペインなのか、をまず考えてください。実はここが曖昧なことが多かったりします。「こんなプロダクトを作りました」というけれど、「それ誰のどんな不便さを解決してるんですか」と訊くと、答えられない人が結構多いんです。「俺が作ったものを誰も理解しない」「世の中が俺についてこなかった」っていうのが、会社が潰れたときの社長の弁だったりします。存在しないペインに対して提案していた、いうことがよくあるのです。

それをどのように解決するかが、この「事業内容」です。「WhatとHow」。どんなビジネスモデルで、どんな成長戦略を持っているか。そのためにいくら必要か。

最後の「創業チーム」、「Who」ですね。どんな実績を積んだ人がやるのか。同じく失敗事例として、創業チームがその事業に実は適合していなかったということが、多くあります。こういう経験とスキルのある人がやるから、この事業に適合している、だから我々の優位性が高い、負けない、という風にこのパートは説明できると良いです。

市場大変動の未来が見えていた山田さん

みなさんご存知のメルカリで考えてみます。メルカリを使ってる人ってどのくらいいますか。・・6〜7割くらいですね。早稲田OBの山田さんが創業したメルカリは創業期に投資して応援しましたが、最初の資金調達で彼が投資家に説明したことを思い出してみます。

まず「市場」の部分ですが。当時はヤフーオークションが主流でした。投資家には、ヤフオクがあるからそんなアプリ要らないと最初は言われたんですよね。ですが山田さんには見えていたんです。当時は消費税がまだ3%でしたが、段階的に上がっていき、消費税がかからないC to C領域に大きな可能性があるということを。みんながCtoCでいらないもの売買するだろうって睨んでいたんです。これがこのフレームワークの中に書いてある「社会背景」です。

そして従来タイプの個人売買は、オークションゆえに自分が買えるかどうか、競り落とせるかどうかが落札終了時間まで分かりませんでした。5000円で買えると思っていたら終了間際で7000円になったりする。それが不便だと山田さんは思っていたんです。でも当時、それは問題だって誰も思ってなかったんです。個人間売買だから仕方ないと。それを、オークションなしで出品から短時間で即購入、というスマホ仕様のアプリを作ったんです。

スマホが急成長する時にメルカリは誕生したのですが、それまでは、デジカメで商品の写真を撮ってPCにアップロードしたりと、出品までの手間がありました。スマホで撮って、2タップぐらいで出品できるのが、今でこそ当たり前ですが当時は革命的でした。それはもう問題に直面してますよねと問題設定した、ここが山田さんの最初の勝因で、ほとんどの人が問題だと思わないところに問題を見出していたんです。

メルカリのビジネスモデルは「CtoC」「市場型」「手数料収入モデル」ですね。「4年後に月間数十億円の取引を目指す」という数字を当時聞いた時は「ぶち上げましたね・・いや、無理じゃないか」と多くの投資家は思ったんです。でも結果的には皆さんご存じ、これを遥かに超える成長を遂げました。これが「事業内容」の部分です。

最後に「創業チーム」。誰がやるか、です。メルカリの例では、ここはやはり非常にフィットしていました。創業メンバー全員が、スマホアプリ事業の経験があった。当時、スマホが急速に普及してる時期だったので、スマホのゲームアプリを作る会社がいっぱいありました。それらの出身者がたくさん集まってメルカリを作ったんです。どうやれば使いやすいアプリが作れるかっていうことを分かってる人は日本にそんなにいなかった時代に、オールスター・ジャパンみたいになってまして、それで短期間に非常に使いやすいアプリを作ることに成功したんです。投資家もたくさん集まり、急成長したということなんです。

世の中のビジネスをざっくり5つの軸で考える

ビジネスモデルは、5つに分解した上で、「収益逓増型」になると非常に良いという話です。ある段階から急激に利益が上がっていくビジネスモデルのことです。利益を10倍にしようと思ったら、大体のビジネスは人も10倍にしないといけないんですね。飲食店で想像すると分かりやすいですが、利益10億円の飲食店が利益を100億円にするには、お店を10倍出して10倍アルバイトを雇わなきゃいけない。世の中のビジネスの9割ぐらいがそうですね。


Googleは、売上を10倍にする際、エンジニアは多分2倍程度でいいと思います。1回検索エンジンを作れば、世界中が使い、店舗も何もいらない。マイクロソフトなどソフトウェア産業は収益逓増型になっていて、これであるかどうかで命運が分かれてきます。VCも収益逓増ビジネスモデルになっていないと資金を出しづらい。だから、この講座では「収益逓増型になるかどうか」をこの5つの軸で点検していくことをやろうと思います。

学生3:同じ方向性の起業を考えている人が2人いたとして、より環境に優しい事業をする方が、投資家の資金を得やすいという傾向はありますか。

村松:同じビジネスなら環境に優しい会社の方が圧倒的に資金が集まりやすいです。投資家がチェックリストみたいなものを送ってくるんです。例えば、電気は再生エネルギーを使っていますか、とか。それで点数が出ちゃうんです。その点数が高くないと投資しませんっていうVCは増えています。VC自身が、より大きな機関投資家からお金を預かって投資活動をしているのですが、世界では「環境対策をやってない会社には投資しない」という機関投資家が標準になりつつあります。

下川准教授:来週はアスエネの西和田社長をお呼びします。その翌週は、皆さんがアスエネの社員になったつもりでVCピッチをやってもらいます。先ほどのピッチフレームワークに落とし込む作業をまずするので、来週は、西和田社長に直接、フレームワークの穴埋めを完成させるべく質問をぶつけてもらうといいと思います。この講座はそうやって進めていく予定です。

(これは2024年4月12日に早稲田大学本キャンパスで行われた講座を記事としてまとめたものです。)